・30年ぶりに下工弁慶号走る
(昭和56年10月10日 「毎日新聞」より)
実習用SLを整備 下松工高創立60周年きっかけにグランドに
懐かしの汽笛が30年ぶりに。拍手のなか下工弁慶号が走った!
・・・下松市の県立下松工高(竹中清校長、869人)は9日、創立60周年の記念式典をあげ、戦後まもないころまで実習用に使われていたSLが、解体、整備されて見事に復活、同窓生や教職員職、生徒らを喜ばせた。
同校は大正10年開校で、県内では宇部工とともに古い歴史を持つ工業高校の名門。12,500人の卒業生は、各界で活躍している。
午前10時から体育館で開かれた記念式典には平井知事、井上県教育長、藤田下松市長ら来賓、同窓会下松工業会の藤井軍治会長、元同校教職員、PTA会員ら約300人が全校生徒とともに出席、竹中校長のあいさつ、知事ら来賓の祝辞、在校生代表、重村宏幸君=電気科3年=のあいさつのあと、SL・下工弁慶号の整備、点検作業から試走、成功に至るまでを追った8ミリ映画が上映された。
午前11時半から、グランドで、弁慶号の試乗会。明治40年、石川島播磨造船所で造られた動輪ニ軸で、高さ2.5メートル、幅1.5メートル、長さ3.5メートルのミニSL.。徳山市の海軍練炭製造所で使われたあと、昭和9年から同校に移り生徒の実習用に使われてきた。26年秋、マキをたいて走ったのを最後に、正門わきに展示されたままになっていた。
それを「OBの要望もあり、60周年を機会にもう一度走らせよう」と、今年3月から、機械科の中野雅行教諭(38)ら4人が中心となり、整備を進めてきた。風雨にさらされサビついた車体を点検、穴の空いていた煙管や安全弁、それにそれにバルブ、ボルトなどは新たにつくり、12人乗り客車も新造して“本番”に備えた。
ピカピカに新しくなったSLは、グランドに敷かれた85メートルのレールの上を黒い煙、白い蒸蒸気を吐き、汽笛を鳴らしてOBや生徒達を乗せて何回も走った。
「まさか、またあの弁慶号が走るなんて・・・。懐かしいです。」OBの1人、市川五郎さん(54)=下松市花岡=は感慨探そう。鉄道唱歌が流れるなか、走るSLに隣接の公集小学校1年児童たちも、授業時間に先生と一緒に歓声をあげて見守っていた。
出席者たちは「これはいい記念になる」とカメラを向けていたが関東方面からの熱心なSLマニアも見られた。前橋市元総社町から、駆けつけた会社員、後閑初夫さん(36)は、8ミリカメラを手に「来てよかった。古い、小さなS Lが走る姿をフィルムに収めることができて」と満足そうだった。
10日は、全国から卒業生が集まって記念同窓会が開かれ、正午過ぎからこの弁慶号がまた走る。
SL弁慶号は、このあと正門わきに、風雨をさけるよう工夫して保存されることになっている。
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